d_blog

このプロジェクトのプロフィール

 スタートして1年が過ぎるころになると、それまで佳織さんが公私にわたって続けてきた多岐に渡る活動の、ことあるごとに講座会場を借りて設営したり、人との縁や絆で結ばれてきた関係が、D_warehouse という発信基地ができひとつの「場」に人が集まれるようになった。彼女が忙しくて充足できなかった自己習得と、あちこちに散らばっていた活動が、一連のストリームとして捉えられるようになってきた。いっぽう、健太郎さんが事業を継承することは、そこで働くスタッフを継承することでもある。それは、じつは働く人たちの関係性を変えてゆくことでもある。明確な方向性を示して客観的なアドバイスをする役、私は引き受け。まず、彼らの話に耳を傾け、各自の意思を尊重することが第一段階か

 佳織さんの多岐に渡る活動とは、自分の経験した出産のこと、赤ちゃんを待望する人への思い、生まれた赤ちゃんの健康のこと、子育てで直面する困難や悩み、心身のヒーリング、こどもを取り巻く環境のこと、オルタナティブスクールでの教育、身体の不調を整える、食の安全への関心と取り組みの数々。

 

 なかで子育てをグンと楽にする熊・天草伝統のおんぶ紐に光をあて健太郎さんが起業したブランド立ち上げ時には販売と研修と被災地支援を含めた普及活動を全国に広めようと影で力強く支えていた。

 

 先代の仕事は、かつて健太郎さんも一緒に営業活動をした当時からのスタッフもいる。先ごろ盛んだったシニア層中心のスポーツ用品や健康促進のグッズを開発して、全国の販売店に卸していた実業である。

 

 これに限らず、代変わりをするしないにかかわらず、旧態然としたシステムはマーケットごと消えゆく運命にある。長期にわたるデータを眺めていると、デザインも生産工程もテクノロジーの恩恵を受けるスポーツ事業においては、小規模生産物で独自性や付加価値でもって同じ市場での販売を競い合うのは、これから先の世代にはあまり有効な方法ではないような気がする、というのが私の予測したところだった。

 たとえば、継承したフレームと、自分たちの持てる力を繰り出して、独自の美しい織物を織ることができるだろうか。手のひらにあるひとつひとつは色も艶も鈍い原資だけれど、どれも人生に不可欠なテーマだ。余分なものをそぎ落として、美点が冴えるように磨いて、分かりやすく整理したら糸を掛けてみよう。

経糸は老若男女の健康的な日々の生活を営むためのツールを掘り起こして研究して開発する熱心さ。

ならば緯糸個々のパフォーマンスをあげでにあったものを新しい目で創造しなおすこと。

 旧来からのスタッフは、新しい方針への転向をすんなり受け止められる人、自分のキャリアを無にするような方法に馴染めない人、これを機に外の世界へ船出する人、葛藤しつつ自分のポジションを立て直す人、とさまざまだった。できること。できないこと。したいこと。無理させる理由など何ひとつない。

 

 なかでひとり、今のままでは自分は何も得ていない、なにかひとつでも成し遂げてから次のステップへ進みたいという若者がいた。Q:まだ20代? A:でもそろそろ後半です。Q:何したいの? A:わからないです。Q:それ、まずいでしょ? A:…ですかね。 Q:じゃあ、どんなことしたいの? A:面白いことしたいですね。Q:これから、必死で面白いことを仕事にしようか? A:はい、よろしくお願いします!…って。なに、それ。面白いコトとヒト。それがデザイナーの田邊裕樹さんの意思をはじめてヒアリングしたときの、私のメモだ。

 私は今までたくさんの若いデザイナーと仕事をしてきた。でも、こんな経験は初めてだった。田邊さんはウェブの立ち上げを経験したことがないけれど、勉強するという。私もサイトを立ち上げるのなら、外注やプロの手に委ねるよりも、自分たちで作り上げたほうがより D_warehouse らしくなると考えた。

 

 佳織船長と船主の健太郎さんに自分たちのしたいことを絵に描いてもらった。おふたりは今までの資料を分類した。船長と私はコンテンツを整理した。それから先は田邊さんと階層を決めた。イメージの役割を明瞭にした。伝えたい雰囲気は色とレイアウトに埋め込んだ。意味のないものを削ぎ落として。全体を統一させて分かりやすく。訪れた人に使い勝手よく。最終判断は見た目の印象を優先にと微に入り細を穿つ作業は年の暮れから正月過ぎて飽きもせず、やがて Distinctive な公式サイトが世にデビューした。

 

 初めてばかりの体験にしては、最初の全体ミーティングから正味3ヶ月、2度ほどの対面ブリーフィングのほかは、すべてのデザイン過程に於いてスムーズで気持ちのいい仕事だった。私はその日まとめたデータを夜中に送る。翌朝田邊さんは出社と同時に作業を始める。このときの私と田邊さんとの弛まぬリモートワークが、パンデミック以降の仕事の進め方の ニューノーマルとなったことは言うまでもない。

「Skypeだけでこんなところまで出来るんだと感動した」とつぶやいた船主の健太郎さんや、船長の喜ぶ顔がご褒美だったね、田邊さん。

新・仕事生活を自分らしく推進してゆくための船上の葛藤を、是非皆様の日々にも役立てていただき、この船に一緒に乗り組みたくなったらどうか、ご意見などたまわりますよう。

D_warehouse に寄せて_2 関口晴美 living explorer・生活探検家

creative director harumi tsuda  ,  web designer hiroki tanabe